コラム①.食料安全保障は「大規模農業」だけでは守れない
食料安全保障は「大規模農業」だけでは守れない
分散型再エネ営農が食料安全保障を変える①
―Solar Food Cell構想―
国会での高市内閣の食料安全保障に関する答弁を聞きながら、強い危機感と同時に、
ある種の違和感を覚えた。
日本の食料安全保障を強化する。
国内農業を守る。
供給力を高める。
その方向性自体は、まったく正しい。
むしろ今の日本にとって最も重要な国家課題の一つである。
しかし議論の重心が、どうしても「大規模農業の強化」に集中しているように感じられた。
大規模化、集約化、企業参入。
生産性向上、輸出拡大、競争力強化。
これらは確かに必要である。
否定すべきものではない。
むしろ推進すべきである。
だが同時に、国会の議論の外側に置かれているもう一つの現実がある。
それは、日本各地で静かに進んでいる
「小さな農地の供給力の消失」である。
農地はある。
だが耕す人がいない。
あるいは耕しても採算が合わない。
結果として、荒廃農地が広がっていく。
この現象は単なる農地問題ではない。
食料安全保障の構造問題である。
なぜなら、食料供給の強さとは、
総生産量だけで決まるものではないからだ。
供給構造がどれだけ分散しているか。
地域にどれだけ裾野を持っているか。
複数の規模層で支えられているか。
それが国家の食料レジリエンスを決める。
大規模農業は効率的である。
だが集中している。
集中した供給は、強いが脆い。
気候変動、災害、物流途絶、エネルギー価格変動。
これらのショックは、集中した供給構造ほど大きく揺らす。
だから本来、食料供給は分散しているほど強い。
日本の農業はかつて、この分散構造を持っていた。
平野の大規模農業。
中山間の小規模農業。
地域ごとの多様な生産。
それらが重なり合って供給を支えていた。
しかし今、その小規模側が急速に痩せている。
狭小農地では機械化効率が低い。
露地栽培では収益が低い。
担い手は高齢化する。
若者は参入しない。
こうして小さな農地から順に生産が消えていく。
大規模農業は強くなる。
だが供給構造は細くなる。
これは長期的に見れば危うい。
私は国会答弁を聞きながら、
「もう一つの供給軸」が議論されていないことに
強い不安を感じていた。
大規模農業を強化することと、
小規模農地の供給力を再生することは、
対立するものではない。
むしろ両輪である。
日本の食料供給構造は、
二層で支えられるべきだ。
では小さな農地は再生できるのか。
従来の露地農業のままでは難しい。
それは現実である。
狭い。
機械が入らない。
労働が重い。
収益が低い。
この条件では、若者が参入する理由はない。
だが、もし発想を変えたらどうか。
小さな農地を「畑」としてではなく、
「小さな食料工場」として再設計したらどうか。
面積ではなく生産密度で考える。
天候依存ではなく環境制御で考える。
露地ではなく施設で考える。
農業ではなく生産システムで考える。
この視点に立つとき、
狭小農地は別の可能性を見せ始める。
施設園芸の単位面積収量は露地の数倍から数十倍に達する。
品質も安定する。
周年生産も可能になる。
つまり小さな面積でも、
十分な供給力を持ち得る。
問題は従来の施設園芸が
エネルギーコストと投資負担の高さで
小規模農地に適用しにくかったことだ。
しかし現在、条件は変わりつつある。
太陽光発電の普及。
蓄電池価格の低下。
LED照明技術の進展。
環境制御技術の高度化。
再生可能エネルギーの地域化。
これらはすべて、
小型分散型の環境制御農業を現実的なものにしている。
つまりいま、狭小農地を
高密度な生産拠点へ転換できる時代に入っている。
ここに、日本の食料安全保障を支える
もう一つの道がある。
それは、大規模農業とは別の軸として、
小規模農地を分散型の食料供給セルへ転換することである。
多数の小さな生産拠点が
地域に点在し、再生可能エネルギーで稼働し、
安定的に高品質農産物を生産する。
この分散供給構造は、
災害や気候変動に対して強い。
輸送途絶時にも地域供給が維持される。
エネルギー価格変動にも左右されにくい。
農地も維持される。
担い手も生まれる。
小規模農地の再生は、
単なる農業振興ではない。
食料安全保障の裾野を広げる国家基盤整備である。
国会での議論を聞きながら、
私は日本の農業政策にもう一つの視点が必要だと
あらためて感じていた。
大規模農業の強化とともに、
分散型農業の再生を。
次回は、この発想転換を具体化するモデル、
「Solar Food Cell(分散型再エネ営農セル)」とは何かを解説したい。
小さな農地は、
小さな食料工場になり得るのか。
そこに、日本農業のもう一つの未来がある。
一般社団法人 日本再生可能エネルギー地域資源開発機構 代表理事 境内 行仁
2026/03/02




