こう聞かれると、多くの経営者が口ごもる。「ウクライナの影響で…」「円安で…」——答えとしては間違っていないが、どこがいくら上がっているかまで答えられる人は少ない。それが電気代というものの恐ろしさだ。見えないから管理できない。管理できないから対策が打てない。
筆者は、地域の中小企業が脱炭素化に取り組む支援事業に長年携わってきた。「電気代が高くて困っている」という声は毎月のように聞くが、「いくら、なぜ高いのかを正確に把握している」という経営者には、ほとんど出会わない。今回は、電気代の内訳を解剖し、「地域再エネ会社」が担うべき情報提供機能の重要性を考えてみたい。
まず、現在の電気代の仕組みを整理しよう。一般的な中小企業の電力料金は、大きく次の5つで構成されている。
経営者が「電気代が上がった」と感じる場合、その主因は圧倒的に「燃料費調整額(燃調)」の変動である。基本料金や電力量料金は契約期間中ほぼ固定だが、燃調は毎月変わる。 しかも上限撤廃が進んだ現在、想定外の高値になる可能性がある。
燃料費調整額とは何か。電力会社が発電するために必要な燃料(原油・LNG・石炭)の輸入価格に連動して、毎月の電気代を加減算する仕組みである。仕組みの核心を一行で言うと、
つまり、今月の電気代に影響するのは、3か月前に輸入された燃料の価格だ。為替レートも影響する。円安になれば輸入コストが上がり、燃調はプラスに振れる。2022年のロシアのウクライナ侵攻と急激な円安が重なったとき、燃調が月によって+10円/kWhを超えた地域もあった。
注目すべきは「2016〜2022年の平均は▲2.7円/kWh(需要家有利)だった」という事実だ。この期間、燃調はむしろ電気代を安くする方向に働いていた。多くの経営者が「電気代は安いほうだった」と感じていたのは、燃調のおかげでもある。
しかし2022年を境に状況は一変した。燃調は大幅なプラスに転じ、多くの中小企業の電気代を押し上げた。問題は、この変動が今後どちらに振れるかが、誰にも分からない点にある。
コラム①〜⑨で見てきたように、「地域再エネ会社」の最大の強みは「地元ブランドによる信用力」だ。しかしそれだけでは足りない。筆者は今、もうひとつの武器が必要だと考えている。それが「電力価格の見通しを語れる力」である。
「電気代はこれからどうなるのか?」——この問いに答えられる地域の営業マンが、果たして今何人いるだろうか。おそらくゼロに近い。大手の営業マンでさえ、社内の電力調達部門に聞かなければ答えられない。
RDo電力価格研究センターが蓄積してきた燃調データと将来予測モデルは、まさにこの「語れる力」を地域再エネ会社に与えるためのものだ。燃調が今後上振れする可能性があるからこそ、今自家消費型太陽光を導入する経営判断が合理的である——この論理を、数字と根拠をもって経営者に届けることが、地域再エネ会社の営業力を決定的に差別化する。
大半の経営者はこのニュースを知らないだろう。電力会社が制度改定の告知を出しても、専門的な内容は難解で、「で、電気代は上がるのか、下がるのか」がすぐには分からない。筆者はこの改定を詳細に分析した。結論から言おう。これは「燃調の構造が変わった」という信号である。
今回の改定の核心は、燃調を計算する際に用いる「基準燃料価格」と、各燃料の「係数」の見直しにある。
| 改定項目 | 改定前 | 改定後(2026-11-01〜) | 評価 |
|---|---|---|---|
| 基準燃料価格(原油換算) | 47,000円/kL | 37,500円/kL | 基準が下がる=燃調プラス方向に働きやすくなる |
| LNG係数 | 大 | 大幅減 | LNG価格低下の恩恵が燃調に反映されにくくなる |
| 原油係数 | 小 | 約7.5倍増 | 原油高騰の影響が燃調に大きく出るようになる |
| ERU(長期電力価格変動リスク調整単価) | 3.7円/kWh | 3.7円/kWh(維持) | 当面変更なし(2027年2月以降に再算定予定) |
ポイントを整理しよう。基準燃料価格が引き下げられることは、「現在の実際の燃料価格と基準値の乖離が広がりやすくなる」ことを意味する。これは、燃調がプラス方向(電気代増加)に振れやすい構造に変わったということだ。
さらに、LNG係数が減ってLNG価格低下の恩恵が届きにくくなり、原油係数が大幅に増えたことで、原油高騰の痛みが直接燃調に跳ね返ってくる。地政学リスクや中東情勢で原油が高騰するたびに、電気代が押し上げられる構造が、より明確になったということである。
関西電力は今回の制度改定で他社に先行した。しかし電力各社は同様の算定構造を持っており、関西電力の改定はある意味「先例」となる。これに倣う電力会社が出てくる可能性は充分にある。
RDo電力価格研究センターでは、今後も各社の制度改定動向を継続モニタリングし、エリア別の電力価格予測を更新していく。地域再エネ会社は、この情報を需要家に届ける最前線になるべきだ。
地域再エネ会社の営業の現場で、よく聞く言葉がある。「もう少し様子を見てから考えます」。電気代の問題は「様子を見ていると損をする」案件の典型である。
「電気代が下がってから考える」という判断は、「下がるかもしれない電気代の低下メリットを取りに行く代わりに、上昇した場合の損失リスクも取る」という意味だ。経営者として、どちらのリスクを取るべきか。答えは明快だろう。
コラム⑩と⑪で一貫して伝えたいことがある。それは、地域再エネ会社の役割は「Roof Plusを売ること」ではなく、「電力価格リスクという経営課題を、地元の言葉で経営者に届けること」だということだ。
商工会議所・地銀・地方ガス会社——これら地域中核企業が「地域再エネ会社」の理事として名を連ねるとき、その信用力と顧客ネットワークに加えて、「電力価格の見通しを語れる力」が加わる。これが地方創生型・脱炭素事業モデルの真髄であり、大手PPA事業者には決して真似できない「地域の強み」である。